近年の温泉開発事業では,深度1,000m〜1,500mに達するボーリングが一般的になってきており,掘削工事費の総開発事業費に占める割合が大きくなってきていることが多い。このことは,掘削工事を行うに際し,事前に充分の掘削工事計画を立てる,すなわち,温泉開発調査・探査を充分に実施することが経済的リスクを最小限度に抑えることを意味している。 温泉はその貯留,熱源,湧出などさまざまな機構からなる。温泉開発にあたり,ここでは地質条件により大きく2分される貯留機構について簡単に説明する。 温泉が貯留される地質条件はさまざまではあるが,大局的には2種類のタイプに分けられる。すなわち,(1)裂罅型温泉と(2)帯水層型温泉からなる。 |
(2) 帯水層型温泉 帯水層型温泉は,地層境界などの地質構成物質の粒子間などのいわゆる間隙に温泉水が存在するタイプである。 |
温泉開発の計画を立てるにあたり,対象地域の地形,地質条件により,充分に吟味された調査手法を組み合わせることが必要である。 ここでは,弊社が実施している主な調査手法について説明する。 |
a. 空中写真判読・地形データ解析・ランドサットデータ解析 地質構造を解析するための基礎資料として,空中写真やランドサット衛星による画像解析および地形図による地形判読を行う。空中写真は,国土地理院によって日本のほぼ全地域が撮影されており,本調査では1:4万あるいは1:2万の白黒写真を使用し,リニアメント(線状構造)の抽出および評価を行う。 地形データ解析は,国土地理院発行の数値地図50mメッシュなどのデータからCG化した鳥瞰図などを用い,地形判読を行う。この方法では,植生や太陽光の方向にとらわれない判読が可能である。 ランドサット衛星による画像解析は,Remote Sensing Technology Center of Japan (Restec)で供給される地球観測衛星ランドサット5号による衛星合成写真(例えば,フォールスカラー合成写真 TMセンサー 分解能30m)などが使用可能であり,これは全世界を網羅している。 |
b. 地表地質調査 調査地全域の地質構成を知りその地質の分布,層理・葉理・節理の走向・傾斜,層厚,岩石の種類などを調査・解析・分析を行い,地質構造を明らかにし地質図を作成する。地質構造を明らかにすることにより,地熱流体の存在やその三次元的分布,流動状態の考察を進める。また,地質調査ではとくに温泉地質という目的であるためさらに変質帯調査や熱蛍光調査をも行う。 変質帯調査では過去から現在までの地熱活動を明らかにする。ここでは変質帯の分布状況や変質鉱物種の判定に粉末X線回折を行い,その地熱活動の規模や種類の考察を行う。 熱蛍光調査では地質,地質構造の時代を明らかにする。ここでは熱蛍光(TL)強度測定を変質帯や断層およびその周縁の岩石で測定し,その時代の考察を進める。 |
c. 地球化学探査 地球化学探査では,机上調査および地表地質調査で選定された地区で,地熱兆候を捉え,その評価を行う。 ここでは地中水銀ガス,土壌水銀,地上放射能,地中炭酸ガスの各探査を行い,地熱兆候や断層などの裂罅についての考察を進める。 土壌水銀,地中水銀ガスは地中に存在するであろう熱源を示唆すると言われている。深部地熱熱源によって気化し,断裂に沿って上昇してくると考えられる水銀を地表部の水銀濃度異常(地中水銀ガス法,土壌水銀法による分析)の確認により,断裂系,地熱兆候を推定する。 土壌水銀濃度測定は直径5cmの鉄パイプを50cm地中に打ち込み,さらに引き抜いて鉄パイプの先端部に充填された土を約5グラム採取し,分析する。 地中水銀ガスは鉄パイプを引き抜いて作成した測定孔に,熱処理し水銀を取り除いた直径1mm,長さ10cm,重量約1.5gの純金製の針金を1週間吊るし,回収後分析する。また,地中水銀ガスについては現地測定用の機器もある。 地中炭酸ガス測定は地下深部より断層などの裂罅に沿って上昇してくる炭酸ガスをガス検知管を用いて測定する。 |
地中水銀ガス量等高線図
d. CSA-MT法探査 CSA-MT法探査により,比抵抗断面を作成し,地下地質構造,とくに帯水層の深度などの考察を進め,ボーリング深度決定の基礎資料とする。探査可能深度は地質状況により異なるがおおむね1,000m程度である。 |
MT法による比抵抗平面図
以上に,述べたような手法を組み合わせ,調査地域の最も適した温泉・水源調査を実施する。 |
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