石英の結晶

自然界には宇宙線を始め，岩石中の放射性元素から放出される各種の放射線が存在している。よく知られているように，ガンマ線，ベータ線およびアルファ線は最も普遍的な自然界の放射線である。 　岩石中の鉱物や貝殻などの絶縁性物質がこれらの放射線を被爆すると，結晶格子中で原子の周囲を回転している電子の一部が励起されて電離し，エネルギーレベルの高い格子欠陥や不純物原子の位置に捕獲される。このような捕獲電子は，測定試料の生成年代と比例的に増加するので，TL（サーモルミネッセンス，熱蛍光）年代測定法に利用されている。ある鉱物の年代値には，鉱物が生成してからの時間（鉱物が数十°Cに冷却してからの時間）のほかに，単位時間あたりに被爆する放射線の強さ，および，その鉱物固有の性質などが関係している。　TL法では，試料を加熱すると捕獲電子が伝導帯レベルまで励起され，基底状態に戻るときに光エネルギ−を放出する現象を利用する。これを熱蛍光現象あるいはサーモルミネッセンス（TL）と呼んでいる。放出される光エネルギーは種々のエネルギーレベルの電子に由来しており，TL法は感度が非常に良いが，物理的には複雑な現象を対象としている。また，試料を1度加熱すると，蓄積された熱蛍光が放出されるので，同一試料を繰り返し測定することはできない。しかし，TL法は，低結晶質鉱物やガラスでも原理的に年代測定が可能であり，しかも，微量の試料量（数mg〜数十mg）でも測定可能であるので，他の手法では困難な試料や若い試料にも適用できる。 　TL年代値は，対象鉱物が生成してから現在までに受け取った化石線量（PD）あるいは等価線量（ED）と，試料が１年間に被爆する年間線量（AD）の比で与えられる。通常EDは，天然試料に既知量の放射線（ガンマ線）を段階的に照射し，照射線と信号強度の変化状況から求められる。 　断層粘土や変質岩の年代測定では，岩石の生成以来蓄積されていたTL信号が，断層運動による摩擦熱や温泉水の熱により消失（アニーリングまたはリセット）し，その後再び蓄積された信号を計測することによって，断層運動の年代や変質年代が推定される。

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